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第一章 缺角的魔法阵
第一章 欠けた魔法陣
空き教室の扉に、鍵はかかっていなかった。
白崎鈴は床に跪き、白いチョークで複雑な紋様を一周描いていた。陣の紋は夕映えのなかで淡く光っている。けれど最も東の一角だけが欠けていて、誰かに噛み欠かれた月餅のようだった。
「教室、間違えてる」彼女は顔も上げない。
「当番です」透はモップを身の前に構え、清掃用具で超常現象に立ち向かっている自分を情けなく思った。「あの……光ってます」
「終わってないものは、みんな光る」鈴はチョークを一回転させた。「終われば、消える。人生みたいに」
透は、どの一言に返せばいいのか分からなかった。見えるのは、指先を真っ白にした粉と、それでも赤い目尻だけだ。陣紋が「ぶん」と一度跳ね、欠けたところから日没のような色が小さく漏れ、すぐにまた暗くなった。
「見ないで」鈴は体を陣の上に伏せた。「長く見てると、埋めたくなる」
「埋めたら、どうなるんですか」
鈴は長く黙ってから、ようやく言った。「放課後が、終わっちゃう」