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序章 被留下的人
序章 残された者
放課のチャイムが、廊下を二つに切った。
前半は走る足音と、開けられる鞄のチャック。後半に残るのはモップとバケツ、そして当番表の上で赤ペンに囲まれた名前だけだ。
青羽透は自分の名前を見て、ため息をついた。高三にもなって黒板拭きに残されるなんて、聞こえは悲惨だ。実際は、誰かと当番を代わっただけである。その人は塾に行く。透は行かない。
教室の空気が、ゆっくり冷えていく。窓の外の桜はすでに季節を過ぎ、落ちきりたくない花が少し残っているだけだ。透は黒板を拭き、椅子を机の上に上げ、窓を閉めようとしたとき、隣の空き教室から、爪でチョークを引っかくような、小さな音が聞こえた。
放っておくべきだ。当番の範囲に、余計なお世話は入っていない。
けれどその音はあまりに規則正しく、誰かが、永遠に書き終わらない問題を一画一画書いているようだった。