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## 人物紹介
カイム(Caim)――契約者。かつてはある小国の王子であった。両親が無残に死んだのち、復讐の怒火が彼の内を満たし、唯一の心残りは妹フリアエだけである。 レッドドラゴン(RedDragon)――カイムの契約相手。人間に対して名状しがたい優越感を抱き、言葉は皮肉に満ちているが、瀬戸際では大きな力を発揮する。 フリアエ(furies)――カイムの妹。新たな封印の女神に任じられ、数年後の彼女は、かつての姿とはまるで別人のようである。 イヌアート(Inuart)――カイム、フリアエと幼いころから育った友人で、フリアエを深く愛している。 レオナール(Leonard)――視力を失った契約者。気高く、礼節をわきまえた隠者である。しかし少年を恋してしまう癖があり、そのことで自らも深く苦しんでいる。 ヴェルドレ(Verdelet)――守護の女神を奉ずる神官長であり、契約者でもある。慈悲深い心で周囲の人々を感化しようとしている。
## 第一章 魂を誘う血
1 翼が光を放つのに任せ、巨大な鳥が空でひらひらと舞っている。 薄い雲が碧い空に浮かび、見上げれば、どの方角もどこまでも広い。美しい。まるで、その真下の光景とは別の世界に属しているかのようだ。次々と湧き上がる怒号も、血の霧を含んだ飛沫も、そのどの片隅も汚すことはできず、荒れ狂って舞い上がる砂塵さえ、このただ一つ清らかな眺めを遮ることは難しい。 地上の人間を嘲るかのように、やがてその鳥は悠然と旋回し、姿を消した。 「前方に歩兵部隊!」 しかしこのとき地上では、誰ひとり鳥が頭上を過ぎたことに気づいていなかった。空を仰いでいるのは、ばらばらに砕けた死体ばかりだった。 「カイム様、くれぐれもご用心を!」 戦場に立つには少々年を取りすぎた兵士が叫び、それに応えたのは、比較的若い男だった。 「恐れるな! 突撃だ!」 年のわりに、その身のこなしはとうに戦いに慣れていた。剣の振りに迷いは一欠片もなく、敵を容赦なく斬り伏せ、虐殺する。次いで、倒れ伏した死体を蹴り飛ばし、なおも駆け抜ける。前方は四方から押し寄せる人波に塞がれ、いかに必死に斬り捨てようと、敵兵は絶え間なく四方八方から押し寄せ、包囲してくる。 「敵の援軍が後方から侵入!」 彼にはその叫びを顧みる暇もなく、手の剣を握りしめ、一瞬も止めずに振り下ろし続けた。 「強すぎる、こいつらは人間じゃねえ!」 悲鳴にも似た声が……
## 第二章 天使、血を噬む
1 これは偶発の出来事ではない。この日は、いつか必ず来る。村の誰もがそれを予期していた。恐ろしい赤い双眸の兵士たちが諸国を侵し始め、自らを「天使教会」と名乗る謎の集団が近くの渓谷に居を定めた、という噂を耳にしてから。 こちらはすでに万全の備えを終えていた。エルフはもともと争いを好まぬ温厚な種族で、他国を先に攻めることは絶対にない。ただし、他国から侵略を受けたときは話が別だ。相手がいかなる国であろうと、侵犯は決して許さず、村人は女も子供も心を一つにして戦いに身を投じる。周辺諸国に対して貫いている原則が永世中立である以上、それは当然のことだった。エルフの村に生まれた者は、書を読むよりも早く、武器の扱いを教え込まれる。 だから、夫が弓を握り、短い一言「森へ」を残して立ち去ったときも、アリオッシュはうろたえなかった。その意味は分かっている。「森の奥へ逃げろ。二つの橋は我らが守る。子供はお前に任せる」。彼女は急いで使い慣れた剣を腰に帯び、まだ幼い娘の手に弓を持たせた。 それでもアリオッシュは、思わず考えてしまう。せめて半年後であってほしかった、と。娘は弓の稽古を始めたばかりで、敵を倒すどころか、自分の身を守れるかどうかさえ心もとない。彼女自身もいま身ごもっていて、戦いに出るには何かと不自由がある。せめてあと半……
## 第三章 昏い空の下の武将たち
1 「ずっとずっと昔、あるところに、とてもとても小さくて、とても勇敢な兵士がいました。小さな兵士は時の雫を飲み干し、世界の洞穴で長い眠りにつき、そうして永遠に若く、強い姿のままでした。ほとんど永久に近い、長い長い年月が過ぎ、世界が血に染まったとき、小さな兵士は目を覚ましました。 『いまこそ、我が命を発揮するときだ!』 小さな兵士は、時の雫を飲み干したその体で、世界の果てへ向かって走りました。やがて小さな兵士は老い、弱り、ほどなく死にました。けれども、小さな兵士の永遠の時間が、世界にまったく新しい命を生み出したのです……あら、もう眠ってしまったの?」 彼女は愛おしげに、自分の腕の中で眠りについた子の顔を撫で、起こさぬようそっと抱き上げ、寝床に横たえた。 「わたしのかわいい子……」 (愛するロシエルの面差しを映した、わたしの宝物。)彼女は心の中でそっと唱えた。 (この眉、この口元、まるで同じ型から抜き出したよう。本当にかわいい……) 彼女がうっとりと子の寝顔を見つめていると、背後で扉の開く音がした。 「お母さま、あの……」 彼女は少しいらだち、振り返って、扉の陰からおずおずと自分をうかがう顔を、きつく睨みつけた。 (いやだわ、またこの子。)彼女は歩み寄り、相手を扉の外へ追い出した。 「セレを起こさないで。あなたって子は、本当にわきまえがない」 子供は涙をため、はっと目を見開いた。 (いや、いやだわ……
## 第四章 四つの神殿 N神の涙
1 あれは夢だったのだろうか。なつかしい光景を見たような気がする。いまはまるで思い出せないのに、泣き出したいほどの苦しさだけは、はっきり残っている。あのまま、ずっと夢を見ていたかった。たとえ悪夢であっても。 彼女は二度と目覚めませんようにと祈りながら、また眠りへ落ちていった。眠りから覚めるということは、自分がまだ生きているということであり、彼女はそれを絶望していた。こんな朝が、もう何度繰り返されたのかも分からない。女神と呼ばれ、体が封印という名の呪いにつながれたあの日から。 眠っていさえしなければ、絶え間ない苦痛を感じる。「封印」という文字が鋭い棘となり、やがて灼熱の刃へと変わる。なぜこの苦痛は、これほど耐えがたいのか。なぜ女神と呼ばれる者だけが、これを背負わされるのか。 「神は、わたしたち人間が自らの手で世界を守ることを望んでおられるのです」 聞こえのいい言葉だ。フリアエは苦痛をこらえ、歯を食いしばって思った。あのときは、自分が女神に任じられるなど、考えもしなかった。他人事にすぎないと思っていた。だからこそ、あんなことを平静に言えたのだ。 わたしたち人間? 違う。正確に言えば、女神がいるかぎり、他の者は何もしなくていい。女神ひとりが苦痛と孤独の中にいればよく、俗世の人々はときおり神殿や遥拝所へ赴き、形ばかりの祈りを捧げさえすれば、何事もなく幸福な一生を送れる。 (なぜわたしだけ? よりによって……わたしを選ぶ? なぜ他の誰かではいけないの?) 「あなたこそが、と思ったからこそ……
## 第五章 紅雷の塔 竜はいずれへ堕ちる
1 帝国の領内には、どこも同じ色の雲が漂っていた。丘陵地帯で見た、あの黒雲だ。空は青を忘れ、大地は緑を忘れ、すべてが陰鬱な色調に覆われている。帝都へ近づくにつれ、その暗さもいっそう濃く感じられる。気のせいなのかどうかは、分からない。 「お前の本当の復讐は、いまから始まる」 (復讐。自分の内から一度も消えなかった、馴染みの言葉。それがいま、これほど硬く冷たく聞こえるのは、なぜだ?) 「だが、いまは悲嘆に浸っているときではない。分かっているな」 (分かっている。なすべきことを放棄したことから生まれる、あの悔恨を、忘れられるものか。あの耐えがたい感覚を、これ以上なく知っている。) (それでも、後悔とは振り払えないものだ。何をしようと、いかに藻掻こうと、これまでの日々で、後悔が止んだことは一度もなかった。) 「人間とは、実に面倒な生き物だな」 言葉そのものは、いつものそれと変わりがない。だが、その中にもう辛辣な味はない。憐れみでもなく、これまでとはどこか違う口調だった。カイムはふと、レッドドラゴンが何を考えているのか知りたくなった。けれども、この先どうなるかは推し量れない。 「あれは……!」 カイムがヴェルドレの指さす方を見ると、そこには一脚の椅子があった。椅子は空を飛び、その上に座っているのは、あの赤い目の子供だった。 「あれが天使教会の教主……」 やがて椅子は、たやすく逃れ……