陸と千星~世界を送り出す少年と別荘の少女~

NOVEL · 日本語

陸と千星~世界を送り出す少年と別荘の少女~

陸と千星~世界を送り出す少年と別荘の少女~。挿絵。https://www.bilinovel.com/novel/1199/121329.html

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# 陸と千星~世界を届ける少年と別荘の少女~

## 挿絵

> https://www.bilinovel.com/novel/1199/121329.html

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## 序

> https://www.bilinovel.com/novel/1199/46896.html

台湾版 転載元 軽之国度 掃図:Naztar(LKID:wdr550) 入力:Naztar(LKID:wdr550) この夏、君は僕に、たくさんのことを教えてくれた。 山並みのあいだへ沈んでいく夕陽は、どうしてあんなにも鮮やかだったのだろう。盛夏の緑の草は、熱を帯びた香りを放ち、穏やかな夜気が肌を包んで、満天に瞬く星空を戴き、まぶしいほど美しかった。この夏が来るまで、僕はそんなこと、本当に何ひとつ知らなかった。 僕を育ててくれたこの村に、世界でいちばん美しい場所が隠されていたなんて、知らなかった。 世界は、こんなにも多彩だ。その光景のすべてが、胸を激しく高鳴らせた。けれど同時に、僕の瞳に映っていたのは、寂しげな色を帯びた君だった。 僕たちは離れることなく、この夏をともに過ごした。 牧神と妖精のように、清らかで、幸福に。 夏は、もうすぐ終わる。 思い出が、心をいっぱいに塞いでいる。 だから―― 僕たちは、ここで別れなければならない。

## 一章 ひとりきりの夏休み

> https://www.bilinovel.com/novel/1199/46897.html

斜陽のまばゆい残光のなかで、純白のリボンがきらめいた。次の瞬間、千星の麦わら帽子は夏の風に乗って、高く舞い上がった。 麦わら帽子の純白のリボンは天女の羽衣のように、橙色の空をゆるやかに舞い、やがて大樹の茂った枝の先で止まった。 (どうしよう……) 夕陽に赤く染まった大樹は、いたずら好きの少年のように、帽子を高く掲げている。千星は困ったように顔を上げ、帽子を見つめるしかなかった。 およそ一時間前、千星は別荘を管理する家政婦――安藤夫人に、「散歩してきます」と告げ、家の外へ出た。 ここの道は舗装されておらず、すべてが土の道だ。道端には草木が生い茂り、渓流は底まで澄み切って、川底の石までくっきりと見える。そのすべてが千星にはひどく珍しく、彼女は目を見開いたまま歩いていた。そこへ突然風が吹き、麦わら帽子を巻き上げ、帽子はそのまま枝先に引っかかってしまった。 小川は夕陽に照らされ、ゆるやかに流れていく。渓のほとりには木が多く、帽子を引っかけた大樹の幹はとりわけたくましく、表面はざらざらとして、かなり恐ろしく見えた。千星がほんの少し触れただけで、掌の皮がすりむけた。 千星は幼いころから都会で育ち、運動は苦手で、木に登ったこともない。いま身に着けているのは夏服で、白いワンピースと華奢なサンダルだけ。腰までの長い髪も、木登りの邪魔になる。 渓流は淡く流れ、千星は水の音を聞きながら悩むしかなかった。しかし、そのとき。 一台の自転車が、橙紅色の光を散らした小道に沿って、……(内容の読み込みに失敗しました!更新するか、ブラウザを変えてください)

## 二章 八月の晴空の下、心にあるのは君だけ

> https://www.bilinovel.com/novel/1199/46898.html

(あの別荘の女の子は、今朝も新聞を受け取りに待っているだろうか) 午前三時半。 陸は村の新聞販売所で、刷りたての新聞を何束も自転車の荷台に積み込みながら、まだ暗い空を見上げた。 大雨は深夜から降りやまず、風こそ立っていない。けれど、あの娘がこんな天気でも外に立っていたら、あの美しい漆黒の長髪も、色合いの爽やかなワンピースも、きっと雨にびしょ濡れになってしまう。 陸が、東京から来たあの少女に出会ったのは、一週間前の夕方だった。 日没前のまばゆい残光のなか、麦わら帽子が夏の風に乗って高く舞っていた。純白のリボンが空で揺れ、その白さは赤い黄昏に少しも染まることなく、そのまま渓のほとりの大樹の枝に落ちた。 そして大樹の下には、一人の少女が立っていた。まっすぐな漆黒の長髪をまとい、体つきは細く、困った表情で枝先を仰いでいる。 彼女は清らかな白いロングのワンピースを着て、白い両足には華奢なストラップのサンダルを履いていた。両腕と首筋の肌も足と同じように白く、か弱く気品があって、今にも折れてしまいそうだった。一目で、よその土地の人間だとわかった。 ――あの別荘に住んでいる人なんだ。 渓のほとりの小さな橋を渡ると、古い家が見える。壁には蔦が這い、庭の植物もかなり茂っている。この家は、春に家主が亡くなってから、誰もいなくなっていた。 陸は勤め先の店長から聞いていた。あの家は最後、亡くなった家主の東京の親戚が引き継ぐことになり、新しい家主の娘が夏休みにしばらく滞在する、と……(内容の読み込みに失敗しました!更新するか、ブラウザを変えてください)

## 三章 少しずつ広がっていく、青空の顔S

> https://www.bilinovel.com/novel/1199/46899.html

母から電話がかかってきてから、もう三日が経っていた。 あれ以来、父からも母からも何の連絡もなく、千星には二人の離婚協議がどうなっているのか、確かめようもなかった。 そんなある日の昼。 千星はタンポポ色の皿を見下ろし、両目を寄り目にして、眉間をぎゅっと寄せていた。 皿の縁はぎざぎざで、本物のタンポポのように見える。この皿だけを見れば、思わず笑みがこぼれるほど可愛い。 皿の上に、あの細かく切られた緑色の物体が載ってさえいなければ。 ましてや、あの表面が鮮やかでつやつやした緑色の物体が、ピーマンという名の野菜でさえなければ。 いや、ピーマンと呼ばれていても、食べたときにピーマンらしくさえなければよかった。 「千星お嬢さま、無理して召し上がらなくてよろしいのですよ」 安藤夫人はそう言ったものの、 「いいえ、食べ切ります」 千星はなおも決然とした表情で答えた。 「せめて、火を通しましょうか。鰹節を振れば苦みが和らいで、とてもおいしくなりますよ。トマトとベーコンを加えて、オリーブオイルで炒めるのもいいですし。あるいは細かく刻んで挽き肉に練り込み、ハンバーグにすれば、ピーマンの食感も味もわからなくなります……わざわざ、苦手なものを生で召し上がることはありませんのに」 三日前、千星は突然、安藤夫人に、これからは毎日、副菜にピーマンを入れてほしいと頼んだ。安藤夫人は今も、千星がなぜそうするのか、腑に落ちないままだ。 初日、千星は煮込んだピーマンを無事に食べ、二日目の肉詰めピーマンもクリアし、三日目はナスとピーマン、それに場所を……(内容の読み込みに失敗しました!更新するか、ブラウザを変えてください)

## 四章 見知らぬ少年

> https://www.bilinovel.com/novel/1199/46900.html

イーゼルに立てたスケッチブックのなかに、長い髪の、物静かで華奢な少女がいて、そのはにかんだ眼差しが、陸を見つめている。 陸は彼女に眼鏡を描き足し、内気で清らかな印象をいっそう深めた。 先週――雨上がりの朝、陸が別荘の少女と言葉を交わしてから、彼は一心に、少女の姿を描きつづけていた。 それまでは、うまく描こうとすればするほど、あの内気で物静かな微笑みは遠ざかり、居ても立ってもいられなくなるほど焦れた。 あの朝、陸は憂鬱なまま、新聞配達に出た。 少女もいつものように、おずおずと垣根のあいだから出てきた。 眼鏡はかけておらず、髪は二つに結び、水滴模様の長靴を履いている。 陸の姿を見ると、彼女は恥ずかしそうに微笑みを浮かべた。 しかし陸は、眼鏡をかけていない少女の顔を見て、失望したような表情を浮かべてしまったらしい。それに気づいた少女は、たちまち笑顔をこわばらせ、いくぶん途方に暮れた様子になった。 陸はあわてて新聞を差し出し、少女はそれを受け取りながら、どこか緊張した面持ちを見せた。 ――わ、わたし、コンタクトレンズをうっかり流してしまって、だから、だから新しいレンズが届くまで、眼鏡をかけていただけで…… そう言い終えると、彼女の頬は一気に赤く染まった。 そんな彼女を見て、陸はたちまち、ある衝撃を感じた。初めて彼女が眼鏡をかけているのを見たときと、同じだった。 彼女はいま、たしかに眼鏡をかけていない。 それでもいまの彼女は、眼鏡をかけていたときと同じくらい可愛かった。 恥ずかしがるその様子は、どこか幼く、どこか清らかで、陸の胸をどきんとさせた。 そうか。自分は眼鏡と顔の調和ばかりを気にしていた。その……(内容の読み込みに失敗しました!更新するか、ブラウザを変えてください)

## 五章 十五歳の別れ

> https://www.bilinovel.com/novel/1199/46901.html

(もう最後の日だというのに……それでも、あの娘には会えない……) 陸は朝刊を配り終え、新聞販売所に戻ると、今月の給与明細を受け取った。 陸の頭のなかは、別荘の少女でいっぱいだった。 今日が、あの別荘へ新聞を届ける最後の日だ。 けれど郵便受けのそばに、はにかんだ眼差しの長髪の少女の姿はなかった。 たとえ陸が彼女に会えたとしても、新聞を渡すだけで、何ひとつ言葉を口にできなかっただろう。 それでも、もうあの娘に会えないと思うと、体から力が抜け、まわりの景色は次第にぼやけ、色を失っていくようだった。 陸は胸の空洞を抱えたまま、学校へ向かった。 彼はひとり美術室にこもり、スケッチブックを開いた。絵のなかの少女は、恥ずかしそうに陸へ微笑んでいる。 ページをめくるたびに、さまざまな彼女が現れた。眼鏡をかけ、顔を赤らめて陸を見上げる彼女。三つ編みを垂らし、目を見開いた彼女。深く腰を折って、陸に挨拶する彼女。 陸は胸を痛めて、それらの絵を見つめた。そのとき―― 「……有村」 消え入りそうなほどか細い声が陸の耳をかすめ、目の前に、涙を浮かべた涼加の姿があった。 彼女は、冷たい眼差しの陸を見て、 「ご、ごめんなさい」 頭を下げた。伏し目の瞳は、涙でいっぱいだった。 「わかってる、有村がわたしに怒ってるのも……それも当然で……有村に無視されても、何も言えない……あ、あなたが一生わたしを無視しても、かまわない……でも、わたしはただ……ちゃんと謝りたかったの。この夏休みのうちに有村を振り向かせる、なんて言ったのは、もしほかの……(内容の読み込みに失敗しました!更新するか、ブラウザを変えてください)

## 終章 約束

> https://www.bilinovel.com/novel/1199/46902.html

『陸くんへ。 今日、学校へ行く途中で、地面に霜柱が立っているのを見ました。 霜柱は朝日を受けてキラキラ光って、とても可愛らしかったです。 ついしゃがみ込んで、しばらく霜柱を眺めてしまいました。 もうすぐ冬ですね。 夏休みが終わって、陸くんと別れてから、もう四ヶ月が経ちました。時間が本当に早くて、びっくりしました。 先週、お父さんの新しい奥さんが赤ちゃんを産んだそうです。わたしの弟になるみたいです。 まだ見たことはないけれど、きっととても可愛いはずです。 わたしも三ヶ月、ひとりで暮らして、だいたい慣れてきました。 学校へ行っているあいだは、お手伝いさんが来て家を掃除し、夕食を用意してくれるので、わたしは元気にやれています。 朝食とお弁当の昼食は、全部自分で作っています。新聞のレシピがとても役に立って、作れる料理もずいぶん増えました。 陸くんに書く手紙は、これで何通目でしょう。 来年には高校生になるのに、出せない手紙をまだ書いているなんて、人から見たら子どもっぽいかもしれません。 でも、陸くんに手紙を書くたびに、心がぽかぽかして、前向きになれるんです。 書き終えた手紙は、全部、好きなクッキーの缶に入れて、大切にしまってあります。 これは、わたしの宝物です。 ときどき取り出して読み返すと、胸は少し痛むけれど、それでもとても温かくて、幸せでたまらなくなります。 どうして詩織おばあちゃんが、恋人と過ごした十六歳の日記を、裁縫箱のいちばん下にしまっていたのか、やっとわかりました。 詩織おばあちゃんも、何度も何度も日記を読み返しては、幸せでいられなかったではなかったのだと思います。 そうそう、陸……(内容の読み込みに失敗しました!更新するか、ブラウザを変えてください)

## あとがき

> https://www.bilinovel.com/novel/1199/46903.html

みなさん、こんにちは。野村美月です。わたしは『月兎姫』を書いていたころ、この物語のプロットを書きました。当時の担当編集者に、「哀しい短編の恋愛物語を書いてみない?」と聞かれ、企画をいくつも立てました。そのとき、アルバイト先の同僚に、どんな物語が読みたいか聞いてみたところ、相手はたちまち目を輝かせ、力を込めてこう勧めてきました。 「お金持ちで、病弱なお嬢さまと、貧しい新聞配達の男の子の、身分違いの恋愛が読みたい!」 そう言ったのです。 「し、新聞配達……! と、お嬢さま……? こ、この時代に身分差なんて、あまりにも……」 その注文があまりに思いがけず、あまりにマニアックだったので、わたしはびくびくしながら断りました。 それから、アルバイトが偶然とても暇なとき、ぼんやりとその題材を想像してみました。新聞配達の少年……ということは、中学生だ。高校生なら、ほかにもっと条件のいいバイトがある。性格は、冷たくて寡黙……女の子の性格は、内気……なぜ二人は、育った環境も立場もこんなに違うのに、それでも惹かれ合うのだろう……想像しはじめると、陸と千星の姿が次第に形になり、我に返ったときには、もう十几枚ものノートを書いていました。 もともとこの一篇は『月兎姫』のあとに続け、短編企画として出版するつもりでした。ところが『月兎姫』の売上がやや伸び悩み、上層部もこの物語は商業的に退屈すぎるという理由で却下したため、物語全体はプロットの段階で凍結されてしまいました。 わたしは大……(内容の読み込みに失敗しました!更新するか、ブラウザを変えてください)

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