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## イラスト
## 第一章 流星から来たスピカ
スキャン:lasthm 長い年月のあいだ、少女は地球と宇宙の境を漂い続け、「星辰」と呼ばれる石のなかで眠りについていた。 星辰は地球のまわりを巡り、青白い光を放つ。その輝きは夢幻のようで、荘厳で、そして温かい。 無数の星辰が地球の引力にそっと揺られ、ゆりかごのように眠りを誘う。 少女の周囲には数えきれない星辰が漂っていた。小石ほどのものから、仰ぎ見なければならぬ巨石まで。姿かたちの異なる星辰は、文字すらまだなかった太古から、地上の生きとし生けるものを見守り続けている。 少女もまた、星々に見守られながら、安らかに眠ることができた。 まどろみのなか、彼女はわずかに目を開け、うねる星の河を眺めた。 星と星は引き合い、近づき、ぶつかり、強い光を迸らせる。 衝突のなかで星辰は溶け合い、より大きな星辰を生む。星辰が大きくなるほど、地球の引力もいっそう強く働いた。 やがて、彼女のいる星辰にも、その番が回ってきた。 彼女を包んでいた星辰は重力に引かれ、流星となって落ちていく。 大気との摩擦で表面が剥がれ、地球と宇宙の境に、長い尾を引いた。 その流星の落下に、気づく者はいなかった。 そのころ—— エジソン下層高校。 シン・ヒラグは机の上のノートに見入っていた。自分を呼ぶ声がして、顔を上げ、あたりを見回す。 棺桶に片足を突っ込んだような老教師が教壇に立ち、教鞭を振っている。黒板の字はだらしなく力なく、一目見れば誰もが無……
## 第二章 襲撃と覚醒
翌朝、シンは床の上で目を覚ました。毛布は敷いてあったが、床はやはり硬く、体のあちこちが痛む。 シンは勢いよく立ち上がり、大きく伸びをした。こわばった筋肉が伸びると、痛みもしだいに和らいでいく。筋肉痛を覚えたのは、子供のころ以来だ。母のいちばん好きな髪飾りをなくし、父にひどく叱られて、馬小屋へ追いやられ、一夜を過ごしたときのことを覚えている。 思い出をしまい、普段寝ているベッドへ目を向けた。 寝間着姿のスピカは、まだベッドでぐっすり眠っている。青の髪は扇のように広がり、細い手足、片手で抱えられそうな柳腰。艶めかしく、それでいて触れることなどできそうにない。窓から射し込む一筋の朝日に、スピカの青糸と雪のような肌がきらめいていた。 シンはすっかり見とれ、思わず唾を飲み込んだ。 よくぞ昨夜、彼女を家へ連れ込めたものだ。緊急の判断だったとはいえ、美少女と二人きりで一夜を過ごしたことに変わりはない。学校の友人に知られたら……そう思うと、胃がきゅっと縮んだ。それでも、安らかに眠るスピカを見れば、連れてきたことは正しかったと思える。 「……いやいや、今はぼんやりしている場合じゃない」 シンはあわてて浴室へ逃げ込み、いつもの服に着替えようとした。 ジャケットにシャツ、着古したジーンズ。 昨夜はメイファンにあれこれ笑われたが、古ささえ除けば、この格好の組み合わせは悪くない。今日はデートではないにせよ、女の子と街を歩くのだ。あまりにだらし……
## 第三章 百年の因縁
一行は数分歩いたところで、再び行き止まりにぶつかった。 途中で階段を何度か上り下りしたせいで、シンにはいま自分がどこにいるのか、ますます分からなくなっていた。通路には電灯がついているが、どれも点いていない。頼りになる光は、メイファンたちの懐中電灯だけだ。 メイファンが突き当たりの壁をいじると、壁がガチャガチャと持ち上がった。 地図にも載っていない隠し扉か。 さらにシンを驚かせたのは、扉の向こうに工場用の大型エレベーターが据えられていたことだ。メイファンとその仲間、合わせて四人に、シンとスピカが加わっても、狭さは感じない。エレベーターのなかの照明は、指先ほどの小さな灯がひとつだけだった。 メイファンがボタンを押すと、再びガチャリと音がして、エレベーターは下降を始める。構造はいたって単純で、最低限の金属フレームと手すりがあるだけだ。見上げれば、かごを吊っているワイヤーまで見える。 エレベーターが動き出すのを見て、メイファンは再び仮面を外した。 「これ、つけてると汗がこもってしょうがない……」 嘘ではなかった。額は汗まみれだ。 ほかの者も仮面を外し、うちわがわりに扇ぎはじめた。 「あなたたち二人が無事で、本当によかった!」 メイファンは両腕を広げ、シンとスピカをぎゅっと抱きしめた。 「わ、おい、メイファン……」 抱きつかれ方がきつく、シンは手ひとつ動かせない。 メイファンの柔らかな胸に押しつけられ、思わず鼓動が速くなる。 「再会を祝うんだから、ちゃんと抱きしめさせてよ、シン!」 「き、急に何なんだよ……」 助けに来てくれたこと自体、シンは嬉しかった。相手がみな顔なじみなら、なおさら安心できる……
## 第四章 少年少女の未来
数時間後。 スピカはエジソン・ピラーの高層にいた。豪華な内装の部屋へ連れ込まれている。壁には窓の代わりに空を描いた油画が掛かり、床には踝が沈むほどの絨毯が敷かれ、アンティークがいたるところにある。部屋の中央には天蓋つきの大きなベッド。奢侈の限りを尽くした部屋だった。 スピカは最初、ひとりその部屋に閉じ込められていた。やがてメイドが数人入り、浴室へ連れていき、無理やり服を脱がせ、体と髪を洗った。風呂のあと、メイドたちは髪を梳かし、爪を整え、控えめでちょうどよい化粧を施し、最後に薄手の絹のイブニングドレスを着せた。流星撃団が与えた服は、捨てられたという。シンが買ってくれた赤いリボンだけは、ずっと身につけていたので没収されずに済んだ。メイドたちはそのリボンも捨てようとしたが、彼女が譲らないので、頭に蝶結びで結ぶことにした。 身支度が終わると、スピカは部屋から連れ出された。 廊下の四方は滑らかな白い建材で造られ、両側に窓はひとつもない。その代わり照明がふんだんにあり、あたりは昼のように明るい。デイヴィッドと私兵たちが廊下で待っていた。デイヴィッドは眉を寄せ、私兵たちは何かを期待するように満面の笑みを浮かべている。スピカを見るや、彼らは思わず小さく息を漏らした。 メイドたちに丹念に妆を施されたスピカは、いっそう艶やかだった。長い睫毛、紺碧の瞳、白く血色の差した肌。青の髪はしなやかに輝き、一本一本が流星から削り出されたかのようだ。しなやかな肢体は、体に沿う絹のイブニングドレスに引き立てられ、……
## エピローグ
事件からしばらくして、ジャッカル、ジャック・エジソンがエジソン社の新たな当主に就き、センターにも新しい章が開かれた。 就任したジャッカルは、エジソン社の体制を根本から変えはじめた。社の不正な収益はすべて集められ、最下層の貧困と汚染の解消に充てられる。革命が終わったあとも、ジャッカルは抜本的な改革を進めている。 リチャードは息子に譲位したあと、辞任した。いまや各方面から責任を追及され、毎日が問責のなかで過ぎていく。エジソン社のこれまでの不当な支配体制が彼を矢面に立たせ、日々はかなり厳しい。それでも重荷を下ろしたあと、気持ちはかえって楽になった……少なくともジャッカルの目には、そう映っていた。 リチャードの妻、メアリー・エジソンは、事件が収まって間もなく姿を消した。別の都市へ逃げ、愛人を頼ったという噂がある。ほかの都市へ逃れた以上、ジャッカルが干渉するのは難しい……同時に、わざわざ連れ戻す必要もないとジャッカルは思っていた。 ジャッカルの弟、デイヴィッド・エジソンもメアリーと同じく行方をくらました。ただ、彼の足取りについては、噂ひとつ伝わってこない。ジャッカルは、センターを離れ、どこかへ旅に出たのだろうと考えた。復讐に戻ってくるかどうかは、同じく誰にも分からない。 こうしてエジソン社は変わり、センター全体、とりわけ最下層は勝利の喜びに浸っていた。食材、物資、新しい流星エンジンが、次々と最下層へ運び込まれる。いまの最下層は、かつてないほど明るい。住民の誰も、かつては敵だったエジソン社が……
## あとがき
まずは、この『流星から来たスピカ』について話そう。 面白い小説や漫画を読み終えると、たいてい「この作品のこことここが魅力的で、きみもきっと気に入ると思う。ぜひ見てほしい」と一言添えて、まわりの人に勧める。けれど、筋道の立った説明文を書くのは苦手だ。だから小説を書くときは、ほかの作品から受けた影響や、あるいは学んだ知識を取り込みたくなる。今回新しく書き始めたシリーズ『流星から来たスピカ』にも、よそから吸い取ったエッセンスをたっぷり注ぎ込んでいる。 このシリーズの着想は、一つの思いつきから始まった。古くから伝わる「人は死ぬと星になる」という伝説が本当だったら、どうなるのか。そこに、いちばん好きな巨大都市や、空を飛ぶ機械といった設定を足した。それから、小学校のときに読んだ偉人の漫画伝記を思い出し、「あの人、かっこいい!」となって、偉人まで基礎設定に加えた。経験したこと、読んだ小説や漫画は、とうに忘れたころにひょいと顔を出して、着想をくれる……それが創作の楽しさだ。 ついでに言っておくと、今回はどうして百合じゃないんだ、と思っている読者も多いはずだ。それは百合の神(ロリおばあちゃん)に、こう叱咤激励されたからだ。「兎月龍之介……初心者が百合で飯を食おうなんて、まだ早い。まずはこの業界で生き延びてからにしろ!」。とはいえ百合のためなら、神であろうとこの兎月龍之介が叩き伏せてみせる。だから次巻では新しいキャラクターが登場する。期待してほしい。……