01 / 01
Section 1
## 第一章
台湾版 転載元:軽之国度 校正:江火如画 昔々、あるところに「心の国」という国があった。そこでは、誰もが機械づくりの仕事に就いていた。 この国は海辺にあり、地面には機械と道路がびっしりと広がり、中心には大きな城がそびえている。城は巨大な工場も兼ねており、人々は毎朝、車でここへ出勤する。どれほど近くに住んでいても通勤手段は車なので、この国の道路はいつも渋滞している。城に着くまで何時間もかかり、だから出勤はいつも遅刻だ。この国の空は美しい澄み切った青の晴天なのに、人々の顔にはいつも疲労と憂いが浮かんでいる。 「今日も、ひどい渋滞だ……」 城の片隅にそびえるガラスの塔の中で、ひとりの人物がつぶやいていた。心の国の王女、安雪・ド・ハート。彼女は心の国の王の実の娘でありながら、ある理由でこのガラスの塔に閉じ込められていた。窓から遥か下界を見下ろすと、どの道路にも車がびっしりと並んでいる。 「みんな、どこへ行くの?」 ぬいぐるみの子犬が額を窓ガラスに押しつけ、安雪に尋ねた。彼の名はジョイ。安雪の親友で、ぬいぐるみでありながら自由に動き、話すことができる。 安雪はジョイを抱き上げ、窓の外を見つめながら彼の問いに答えた。 「あの人たちは、この心の城へ来るの。機械を作るために、二十四時間交代で働いているのよ。」 城の高みにあるこのガラスの塔から見下ろすと、車の列はまるで……
## 第二章
『先にお墓参りに行ってくる』 桃太郎は心羽に送ったメールのとおり、外出の準備を始めた。朝の電話の一件を片付けなければ、落ち着いていられない。今日中に東京へ向かうと決めたので、まず亡き妻にそのことを報告するつもりだった。 ほとんど自分のトレードマークと化していたジャージを脱ぎ、慣れないスーツに着替えた。ネクタイはせず、シャツの襟は開けたまま。携帯、鍵、財布をジャージのポケットからスーツのポケットへ移した。墓前に供える花を用意するため、庭で咲いているバラを切る。妻・郁美が生前好きだった花だ。最後にもう一つ、用意しなければならないものがある。普段は足を踏み入れない心羽の部屋から、あるものを見つけ出さねばならない。だが探しているものはすぐに目に入った。心羽の写真をたくさん貼ったコルクボードの前に置かれた、子犬のぬいぐるみ――ジョイだ。 ジョイはもともと、郁美が幼いころから大切にしていたぬいぐるみだった。幼いころから母の記憶がない心羽にとって、唯一の形見と言ってよく、とても貴重なものだ。 「心羽のやつ、ずいぶん大事にしてるみたいだな!」 桃太郎は心羽の幼いころの写真を眺め、その成長の早さに驚き、それからジョイをつかんで椅子に座り、「男同士の会話」でもするかのように、つぶやいた。 「……昔のことを全部知っているのは、もうお前だけだ。」 彼は深くため息をつき、ぬいぐるみの背面を確かめた。背中にはファスナーがついていて、小さなものを入れられる。ゆっくりとファスナーを開け、普段車を直すときに使っている、画面にひびの入ったタブレットを無理やり押し込んだ。片手に、詰め込んだ東……
## 第三章
「……うわ!」 心羽は急落下する夢から逃れるように、ぎゅっと目を見開いた。 息が詰まりそうな熱気、さまざまな食べ物と排気、アンモニアの臭いが混じり合った匂いが一気に押し寄せた。さっきまで目の前にあった鳥居と神社の森は消え、代わりに頭上までコンクリートの壁に覆われた光景が広がっている。ここは高架下のトンネル?……そばにいたはずの守男の姿もない。心羽は慌てて振り返り、少し離れたところに守男がひとりで立っているのを見つけた。さっきまで夢の中の空を守男と飛んでいたのに、いつの間にかハーツごとここへ移っていた。心羽はサイドカーから這い出し、守男のもとへ歩み寄った。 「守男!ここはどこ?」 寝ぼけ眼の心羽が守男のそばに立つと、目に飛び込んできたのは、淀んだ水路の両岸にそびえる高層ビルと、あまりに大げさな巨大看板だった。心羽はその威圧的な光景に気圧され、守男も同じように、目を見開いたまま全身の力が抜けていた。 ピンク色の朝日がビルの隙間から差し込み、アサヒビールの看板を照らし始めた。今はまだ、朝の五時くらいだろうか? 守男はようやく我に返り、無理に言葉を絞り出した。 「ここは……大阪の道頓堀だ。」 守男は対岸のビルの壁を指さした。壁には馬鹿でかいグリコの看板が掛かり、LEDの鋭い光を放ちながら心羽を見下ろしている。 二人はまずバイクをトンネルから引き出した。昨夜ほとんど満タンだったガソリンはすっかり尽きていて、二人で力を合わせても、重い車体を動かすには相当な苦労がいった。 ようやくハーツを歩道まで押し出したあと、……
## 第四章
車窓から東京タワーが見えたとき、心羽は初めて「ここは東京だ」と実感した。 こんな大都市はテレビでしか見たことがない。故郷では一度も見たことのない高層ビルが、目の前を次々と流れていく。 彼女が向かうのは志島自動車。一度も会ったことがなく、パパを誤解し、ママを追い出した祖父が、そこにいる。 新幹線を降りると、守男はホームで携帯を使い、志島本社までの乗り換えルートを調べた。本社は東京湾に面した一帯にあり、最寄り駅はお台場。途中で電車を一度乗り換え、片道四百六十円。帰りを考えなくても、二人で九百二十円かかる。心羽と守男は不安げに自分の財布を確かめた。心羽が持っている六百五十円を足しても、まだ少し足りない。 「君ひとりなら、志島自動車まで行ける。でも、もう一度『魔法』を使うか?」 守男の提案を聞き、心羽はしばらく考え込んだ。そのとき、また見知らぬ人が話しかけてきた。 「森川心羽だな?」 心羽が顔を上げると、丸眼鏡をかけた中年の男が、こわばった笑みを浮かべ、両手をもみながら彼女の前に立っていた。その両脇には、太った男と、気の抜けた男がひとりずつ立っている。心羽はこの三人を見たことがない。だが、着ている作業着は、大阪のガソリンスタンドで出会ったあの二人の怪しい男たちと同じだった。 「あ、あんたたち、ヒゲの仲間なの?」 守男は反射的に両腕を広げ、心羽と男たちの間に立った。格闘にはまったく自信がないのに、それでも勇気を振り絞って大声で言った。 「心羽、君は先に……