聖グロリアーナ女学院の戦闘軌跡

NOVEL · SECTION 01 OF 01 · 日本語

聖グロリアーナ女学院の戦闘軌跡 — Section 1

聖グロリアーナ女学院の戦闘軌跡。挿絵。

Read full book on one page (1 sections) ↗

THE READING ROOM

Text in 日本語

Contents · 1 sectionsSection 1

01 / 01

Section 1

## イラスト

## 第一話 【紅茶の園に集う少女たち】

学園艦の静かな森に、ベッドフォード製・双6気筒エンジンの重低音が響き渡る(チャーチルのことだ)。二つの直列6気筒エンジンを組み合わせた水平対向エンジンは、いかにも英国らしい代物だが、その大出力は正真正銘のものだった。 続いて聞こえてくるのは、名高いロンドンの赤い二階建てバスに搭載されたAEC製直列6気筒エンジンの音色(マチルダIIのこと。当時のロンドンバスに使われていたのと同型のエンジンだ)。ベッドフォードに比べれば、ずっと軽快な音である。そのぶん、履帯と地面が擦れ合う金属音のほうが、かえって騒がしく響いた。 英国が誇る歩兵戦車たちは、今日も優雅に、華麗に、学園艦の森を駆け抜けていく。 まるで観艦式のように隊列は寸分も乱れず、乗員たちが命の次に大切にする紅茶をこぼさぬことを前提に、歩兵戦車としての最高速度で進む。これぞ英国流というものだ。 どれほど緊急の事態であろうと、たとえ銃林弾雨の中にあっても恐慌に屈することなく、目標へ向かって断固として突撃する。そんな学校に、慌てふためいて醜態をさらす生徒など、存在するはずがない。 英国の提携校から受け継いだ良き伝統を持ち、戦車道においては悠久の歴史と地位を誇る名門校のひとつ。 国内でも指折りの貴族女学院として広く知られ、かつては王族や外国の貴族までもがここに学んでいた。 しかし残念なことに、しばしば黒森峰という常勝校に道を阻まれ……

## 第二話

聖グロリアーナの生徒たちは、会場の大型スクリーンに映し出された対戦表を、一心に見つめていた。 放送が流れるにつれ、新たに抽選された校名が一つ、また一つと対戦表に現れる。対戦校の名を見て、誰もがほっと息をついた。 「対戦相手はBC自由学園です」 オレンジペコがそう報告すると、ダージリンは小さくうなずいた。 「まだ大洗の番ではないの?」 「気になりますか?」 「少々ね」 残りの空欄はまだ六つ。もし大洗の相手がヨーグルト学園であれば、こちらがBC自由を打ち破った次の相手は、十中八九、大洗になる。 もちろんダージリンの頭の中には……いや、紅茶の園の生徒全員の意識の中に、聖グロリアーナがBC自由に負ける可能性など存在しない。これは自惚れではない。実力という観点から下した、公正な評価なのだ。英国流の冷静な分析の末に導き出された結論である。 そのとき、会場に歓声と悲鳴が交錯して響いた。 「あれは?」 「黒森峰の相手が決まりました。ええ、知波単のようです」 「ということは、さっきの悲鳴は知波単が出したものね」 アッサムは知波単の生徒たちがいる区域を見上げた。まるで大きな茶色の塊のように見える。ところが予想に反して目に飛び込んできたのは、知波単の生徒たちが万歳を叫んでいる光景だった。 「あら? 何をあんなに喜んでいるのかしら」 「あの学校の考えていることは、ますます分からなくなるわね……」 オレンジペコも、アッサムと同じように困惑している様子だった。 「さっき悲鳴を上げていたのは、別のBブロックの学校のようです」 シードの四強校は、左右に振り分けられる。……

## 第三話

会場の巨大なスクリーンには、サンダースの十両のうち九両が森林へ投入され、大洗を包囲しようとしている様子が映し出されていた。 その大胆な用兵に、観客は興奮して歓声を上げた。とりわけサンダースの応援団がいる区域では、軍楽隊の奏でる勇壮な行進曲に合わせ、チアリーダーたちが手にしたポンポンを振りかざしている。 音楽と歓声の大きさは、観客席から離れた場所にいるダージリンたちにまで届くほどだった。 「さて、このあとどうするつもりかしら」 ダージリンは興味深げに戦況を見つめていた。 森林から逃れようとするIV号の退路を断つため、二両のシャーマンが外側から挟み込もうとしている。 「完全に包囲されています」 オレンジペコの顔に、不安の色が浮かんだ。 「ええ。ほんの少し速度を落とすだけで、たちまち徹底的に挟撃されるわ」 突然、加速して隊列の先頭に出たIV号が、敵の砲撃をものともせずさらに速度を上げ、シャーマンの隙間を強引にすり抜けようとした。その気迫に気圧されたのか、シャーマンは二両の間隔を詰めきれず、IV号を通してしまった。 さっきまで思わず息を詰めていたオレンジペコも、ようやくほっと息をつく。ダージリンは優雅にティーカップを取り上げ、紅茶を一口味わった。 「ダージリン、グリーンから連絡です」 その合間を縫うように、アッサムが後ろから書類を差し出した。 「グリーン? 何の用件かしら」 開かれた書類に静かに記されていたのは、ヨーグルトとワッフルの対戦結果だった。 「予想どおりヨーグルトの勝利ね。でも、彼女たちの新車両は?」 「ヨーグルトの新車ですか……

## 第四話

「でも、P40とかいうのが秘密兵器だなんて、本当にそこまで凄い戦車なのかしら。リベットだらけの設計は、新しいと言うべきか、古いと言うべきか」 ダージリンの得意げな発言に、オレンジペコは首を傾げて自分の考えを述べた。 しかしダージリンは意味ありげに微笑んで言った。「大洗のIV号より強い、と言ったほうが適切かしら」 「ええ。確かに、データ上はIV号とシャーマンの間くらいのはずですよね? あの傾斜した正面装甲は、マチルダの2ポンド砲で撃っても、本当に貫けないかもしれません」 「戦車道というものは、優秀な指揮官と乗員が、まともに勝負できる性能の戦車を一台揃えれば、戦術の幅が何倍にも広がるのよ」 「優秀な指揮官、ですか?」 「そう。大洗だけではないわ。アンツィオも、三年連続で初戦敗退したあと、ようやくああした戦力でマジノを破ったのだから」 「対戦報告はまだ見ていません。アンツィオとマジノは、結局どんな試合だったのでしょう」 「マジノは相変わらず、重戦車と軽戦車を組み合わせた防御重視の陣形。アンツィオは豆戦車の奇襲で相手を攪乱し、その隙に肉薄して敵の旗車を撃破した。そういうことよ」 ダージリンがその一戦を説明した。どちらの隊にも、とりたてて目新しいものはなかった。この戦力差でアンツィオが勝てたのは、運が良かったのか、それともマジノが失策したのか。オレンジペコは思わずそう考えていた。 「マジノもアンツィオも、例年とだいたい同じような戦い方だったのでしょうか?」 「マジノは言うまでもないとして、アンツィオは布陣にこそ……

## 第五話

紙の上のデータだけを見れば、車両の速度差はそれほど大きくない。しかし、つねに動き続けている戦車道の車両にとって、この差は決して軽視できるものではない。速ければ、より早く発見し、接敵し、有利な攻撃位置を取れる。いずれにせよ、有利なのは速度の勝る側なのだ。 さらに言えば、速度そのものだけでなく、加速性能と瞬発力のほうがより重要である。たとえば、最高速度が六十まで出せる戦車でも、その最高速度に達するまでに一時間もかかるのでは、何の意味もない。 最高速度がいくらか遅くても、加速性能が高ければ機動性の面で見劣りはしない。だから各校はこの性能の向上を重視し、整備員たちはたゆまず努力を続けている。 戦車道では、車両を長時間走らせる必要はない。極端に言えば、試合の場にいるあいだ走れればよい。だから参加車両は、おおむねレース競技のように、エンジンの出力を限界まで絞り出す。 速度を上げるため、軽量化も作業の一部だ。チャーチルVIIの搭載弾数は八十発だが、通常は半分しか積まない。実際の試合で撃ち尽くすことなど、ほとんどあり得ないからだ。 燃料を満載すれば六百九十二リットル、重量に換算して五百キログラム。もちろんこれも相応の重さではあるが、やはり燃料まで減らす学校はほとんどない。 とはいえ、かつては減量のために弾薬も燃料も極限まで削った学校が、本当に存在したと言わざるを得ない。試合の半ばで燃料が尽きて立ち往生したり、弾が尽きたり……

## 最終話

時計に目をやり、ダージリンは無線の送受話器を取ると、右手を上げて人差し指を回した。その合図を見たオレンジペコはうなずいて了解を示し、通信チャンネルを全車への送信に切り替えた。 「こちらアンナ・マリア。午後のお茶の準備はいかが?」 各車が次々とダージリンへ報告を始めた。 「サンドイッチとキュウリは底をつきました」 「スコーンもまだ焼き上がっていません」 「クリームは準備できています。いつでも問題ありません」 「ケーキの準備、完了です」 「ゼリーも出来上がりました」 「ハム、卵、チーズ、準備完了です」 「アーモンドペーストが足りません」 「シュークリームはまだ膨らんでいません」 すべての報告を確認すると、ダージリンは続けて指示を出した。「了解。まもなくお客様がいらっしゃる。準備を怠らないように」 「了解!」 「よし、楽しいお茶会の時間よ」 ダージリンは嬉しそうに通信を切った。オレンジペコは少し驚いた顔で彼女を見つめる。「ダージリンさま、試合の前から思っていたのですが、こんな奇妙な暗号に意味はあるのでしょうか」 「ふふ。たとえ盗聴されても、中身の意味は分からないでしょう」 ダージリンは得意げだったが、オレンジペコはそれでも水を差した。「いえ……あの内容なら、普通に分かると思います」 アッサムが冷静に言った。「暗号というものは、もっと複雑にすることもできます。ですが、普通の通話を装わず、まったく別の内容を話してしまっては、意味がありません」 アッサムは照準具を見つめ続けながら、情報処理学部第六課で学んだ知識を口にした。 ダージリンは興味深げに体を傾け……

More stories from the bookshelf

Browse all novels ↗