01 / 01
Section 1
## 挿絵
## EPISODE 1 鳩血石の波紋
台湾版 転載元:ノウザン@軽之国度 東京都内のある宝飾店の応接室で、女店主はソファに座る婦人にネックレスを見せていた。ネックレスは、ビロードのクッションの上に慎重に置かれている。 「ご満足いただけましたでしょうか、ズブロッカ夫人。こちらの石は、ルビーのなかでも最高級の鳩血石でございます」 女店主は微笑みながら紹介した。 「プラチナで仕立てた台座にダイヤモンドをあしらってございます。この等級にしては、お値段もたいへんお手頃ですわ!」 繊細な曲線に加工されたプラチナには、数十個のダイヤモンドが埋め込まれ、細工はきわめて精緻だ。 ペンダントの周囲にはメレダイヤが一周し、中央には目もくらむほどの輝きを放つ、大きな雫型のルビーが嵌められている。 「鳩血石」とは文字どおり、その色合いが鳩の鮮血を思わせる、最上等のルビーである。 その境地に達することのできるルビーは、ごくわずかしかない。 暗赤に近い濃艶な色は透明で、いかなる不純物も含まず、弱い光のもとでも燦然と輝く。そのうえ、角度が変わると、ルビーのなかにモザイクのような妖しい淡紅色の光さえ瞬く。 これこそが「鳩血石」だ。 「ああ、本当に美しい!」 網状のヴェールをあしらった帽子をかぶったロシア大使夫人は、思わず、ネックレスの精緻な細工と中央の大粒ルビーの絢爛たる色合いに感嘆の声を漏らした。 これほど大きなルビーは、同じ大きさのダイヤモンドさえはるかに上回る値段がつく。だからこそ、ほかの宝石には代えがたい神秘的な魅力を持つのだ。 「これになさいませんこと、夫人。ルビーはちょうどアメリカ大使夫人の……
## EPISODE 2 舞台に潜む魔物
東京都内のロシア大使館の一室で、さっきから大使夫人の秘書が声をひそめて電話をしていた。 部屋には彼ひとりしかおらず、大使館内の電話が盗聴されるはずもない。それでも彼は、大きな声で話す勇気が出なかった。 万が一、ほかの者に通話の内容を聞かれたら、まずい。 『スミルノフ、いったいどういうことだ!』 電話の向こうの相手は、こらえきれずに満腔の怒りを爆発させた。 『あのルビーのネックレスには、最初に約束した物がまったく入っていない! こっちの出した値段が足りないとでも思って、敵対する会社に売り飛ばしたんじゃないだろうな?』 「そんなこと、するわけがありません! もう一度よく探してください。本当に、ルビーのネックレスの指定された場所に入れておいたんです!」 『探せるところは全部探した! それに、そのネックレスは君が送ってきた写真といくらか違う。ルビーは本物で間違いないが、周りのダイヤモンドが一個足りない』 「まさか……」 『そうだ。君が最初に指定した、あの一個だ。君と接触している会社がうちだけじゃないのは知っている。ほかの会社の連中が、貴国に密告したんじゃないのか?』 「……」 『どっちにしろ、これは明らかに君のミスだ! フィルムのバックアップはないんだろう? 早くマイクロフィルムを見つけ出せ。さもなければ報酬は一銭もやれないぞ! 報酬の話は、フィルムが見つかってからだ!』 相手は強硬な口調で何度も念を押すと、スミルノフの返事も待たずに一方的に電話を切った。 「くそっ! いったいどうなってるんだ!」 大使夫人の秘書——スミルノフは、受話器を力いっぱい叩き戻した。 彼は焦燥に駆られながら……
## EPISODE 3 陰謀のワルツ
聖プレジデント学園の生徒会室で—— 有閑倶楽部の六人のメンバーは、相変わらず暇を持て余し、目的もなくここに集まっていた。 「Check back(注1 P220)、ここでNatural turn(注2 P220)!」 見目麗しい容姿と人受けのよさを生きがいとする二人——美童と可憐は、社交ダンスを踊って時間をつぶしていた。 美童のリードに合わせて可憐がステップを踏むと、長い髪がしなやかに揺れた。 ・ 「ずいぶん上達したね、可憐! すごいじゃないか!」 「美童のリードが上手いからよ。さすが、子供のころから踊っている人ね」 「それなら、年に一度のダンス大会、神無祭に出てみようかな? 僕の実力なら、スタンダードダンス部の連中に負けないはずだ」 「冗談はやめて」 ターンをひとつ決めると、可憐は笑いながら却下した。 「うちの学校のスタンダードダンス部は、優勝の見込みがかなり高いのよ! ほかの部員は大した実力じゃないけれど、沢之鶴美智子と大関真悟は国際レベルの腕前なんだから」 有閑倶楽部のほかのメンバーは机に寄りかかり、話しながら踊る二人を眺めていた。 これまでの事件ではほとんど見せ場のなかった美童だが、踊りとなると水を得た魚で、動きはきわめて流麗だ。 「ふーん……人間って、やっぱり少なくとも一つは得意なことがあるんだな」 自分のことは棚に上げて、悠理は少々失礼な結論を下した。 たしかに、美童と可憐の長所は美しい容姿だけだ。しかし言ってしまえば、悠理にしても、驚異的な体力のほかに自慢できるのは、必殺の飛び蹴りと、大食い選手級の胃袋くらいのものだろう。 「神無祭って、たしか……
## あとがき
世界でいちばん華やかで、活力に満ちた高校生といえば、この『有閑倶楽部』のメンバーを置いてほかにいない。 それにしても、この六人は本当にうらやましい。 財閥の令嬢、本家の令嬢、大病院の院長の息子、警視総監の息子。これほどの大富豪やエリート家庭の出身というだけでも十分うらやましいのに、全員が美形ときている。 清四郎と野梨子は学年でも一、二を争う優等生だ。そればかりか、野梨子は演劇部の部長を超える演技力を持ち、公演のヒロインを務められるほど。美童と可憐の社交ダンスの実力も、大会に出られる水準にある。 しかし何よりうらやましいのは、六人のあいだにある真摯な友情だろう。 可憐はいつも野梨子を妬み、悠理と野梨子も折に触れて互いに突っ込み合う。それでも友だちが困っていれば、彼らは身を顧みず助けに入る。 その勇気と行動力は、有閑倶楽部のメンバーだけに向けられたものではない。そばに助けを必要とする人が現れれば、全力で手を貸す。たとえば、白雪緑を傷つけた不徳な政治家をこらしめたり、大関真悟と沢之鶴美智子を負傷させた賭け事を壊したり、といった具合に。 だから彼らはしばしば危険に遭う。それでも六人は、自分とは直接関係のないことのために、知恵と力を注ぐことを厭わない。 そういう行動に出られるのは、何がいちばん大切かを、彼らが分かっているからに違いない。富も、家柄も、美貌も、才能も、何ひとつ欠けていないからこそ、本当に大切なものが何なのかを、より深く悟れるのだ。 ただし、それは……