大正空想魔法夜話 墜落少女・異種絶滅

NOVEL · SECTION 01 OF 01 · 日本語

大正空想魔法夜話 墜落少女・異種絶滅 — Section 1

『大正空想魔法夜話 墜落少女・異種絶滅』挿絵。

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01 / 01

Section 1

## 挿絵

## 序幕

台湾版 転載元:軽之国度 スキャン:被ban男 修図:球茎 賜野乱歩が事件現場――上野駅前にたどり着いたとき、時刻はちょうど逢魔が時(注:黄昏を指し、昼と夜が入れ替わる刻)に差しかかっていた。 煤油灯が広場を照らし、慌ただしく逃げ惑う人々の姿は、ひとつ残らずその光の中に浮かび上がっていた。 立襟の制服を着て、顔色ひとつなく命からがら逃げる学生、子どもを連れたまま呆然と立ち尽くし、一歩も動かない婦人、何を叫んでいるのかわからないシルクハットの紳士……乱歩は彼らのあいだを縫うように進み、速やかに現場の中心へと潜り込んだ。彼が追い求めてきた「少女」は、きっとそこにいる。 「――広場を出た右手です、救護隊が待機しています!」 人垣の向こうで、女の警官が佩刀を片手に、群衆の流れを誘導していた。 「早くあちらへ! 動けない方は声をかけてください!」 威厳のある口調が、周囲の混乱をいくらか和らげる。人々は我に返り、指示に従って現場から離れていった。 「桔梗さん!」 乱歩は彼女のもとへ駆け寄り、名を呼ぶ声はほとんど絶叫に近かった。 「おや、賜野じゃないか!」 火之星結梗巡査部長は警戒の姿勢を崩さぬまま振り返った。長い髪が、制服の襟の上を流れている。 「こんなところまで来て、また取材かい!」 「はい!」 「その意気は立派だが、命まで落とすなよ! 息さえあれば、睡蓮にはまだ手がある!」 言い終えると、彼女は視線で背後を示した。 そこには……

## 第一幕

大正十一年 三月十六日 帝都日日雑報 朝刊 墜落少女 人形座と上野で交戦 昨夜、午後八時ごろ。およそ十体の活人形が上野に現れ、付近を通りかかった帝都の市民を襲った。帰宅途中の男性や学生など、死者は合わせて十一人。その後、墜落少女が姿を現し、活人形を高所から落下させて撃退した。 これは人形座による十二件目の襲撃事件である。 墜落少女との交戦は六度目。 なお、今回は本紙記者が初めて戦闘の目撃に成功した。以下、その経過を詳報する―― * 「いったい何回言えばわかるんだ?」 昼を過ぎた麴町区富士見町、帝都日日雑報の記者室。 編集長の東条は眉を寄せ、八字髭をひねった。 「賜野の努力は、わしもよくわかっている。帝都を見渡しても、墜落少女の戦闘をこの目で見た記者は、たぶんお前ひとりだろう。だがな、お前の記事は、その強みをあっさり帳消しにしてしまう――つまらないんだよ。」 革椅子に座った彼の身体は、ひどく肥えていた。三方(注:さんぽう。鏡餅を載せる供物台を三方という)からはみ出す鏡餅のようで、そこから漏れ出すのは、祝祭とはおよそ縁のない不満だった。 悩ましげな顔のまま、彼は視線を窓の外へ移す。隣楼の屋上にある伝書鳩の檻と、神楽坂の街並みが目に入った。帝都は連日、暖かで穏やかな日和が続いていたが、今日は真冬を思わせる冷たい風が吹いている。 「たとえば、この記事を見てみろ。」 東条は何枚かを取り出した……

## 第二幕

「どうすれば……もう少し、核心に迫れるんだ……」 ――沙絵加と「取材契約」を結んでから、二週間が過ぎていた。 通算四度目となる戦闘取材を終えた乱歩は、慣れない「この空間」でひとりごちた。 「そろそろ、策を立てる頃合いか……」 ほとんど無意識にこぼれた声は、木目の華麗な壁に弾かれ、誰の耳にも届かぬまま消えた。 契約を結んでから――彼の記者としての仕事は、順調に進んでいた。 活人形が現れるたびに、蓋野家から記者室へ電話が入る。乱歩は指示どおり現場へ駆けつけ、ほぼ漏れなく、戦闘を最初から最後まで取材できた。 その結果、彼は多くのことを知るようになった。 沙絵加は本当に、最初から最後まであの悪人の態度を崩さない。 そのくせ妙に情に厚く、話していると、珍しいことに理性的だとさえ思えてくる。 カステラを前にしたときだけ、彼女は丁寧で礼儀正しい。 今の乱歩は、これまで「恐怖の化身」と見てきた墜落少女を、ようやくひとりの人間として見分けられるようになっていた。 さらに、「詳細な戦闘描写」という強力な武器を手にしたことで、彼の記事は帝都でしだいに話題を呼び、文章は相変わらず飾らないものの、抜きん出た情報量は好評を得ているという。おかげで近ごろの東条の機嫌も、かなり良い。 しかし―― 「いったい、何なんだ……」 ――活人形の正体という、肝心の謎は依然として解けない。 人形座の座長は前回以来、再び姿を見せておらず、彼もまた、まだ掴めてい……

## 第三幕

「――以上の功績により、賜野乱歩を本日、主任記者に昇進させる。」 朝礼の最後。 東条がそう告げると、記者室に拍手が湧いた。 「では賜野、一言頼む。」 「はい。」 一歩前に出て、乱歩は列をなして立つ記者たちを見渡し、短い挨拶を述べた。 ――乱歩が書いた角害ビル事件の記事は、帝都に旋風を巻き起こした。 あれほどの大事件の間、乱歩は最初から最後まで現場にいた。他紙に比べて情報量は圧倒的に多く、「警察の動向を見抜き、強制捜査に同行した」賜野乱歩は、腕利き記者の名を帝都に轟かせた。 これを機に、帝都日日雑報の発行部数も、三大新聞と呼ばれる「書賈新聞」「時事報社」「毎朝国報」と肩を並べ、これをもって正式に「大型紙」の列に加わったと言っても過言ではない。その偉業を独力で成し遂げた乱歩の昇進は、半ば予想されたことでもあった。 「……えー、ご存じのとおり、賜野が担当する『人形座事件』は、いまなおすべてを解決する糸口が見つかっていない。」 乱歩が挨拶を終えると、東条が話を引き継いだ。 「犯行声明は相変わらず届くし、謎はますます込み入るばかりだ。だから――これからも、もっと活躍してくれることを期待しているぞ、賜野!」 東条は乱歩の背を叩き、満足げに大笑した。 「諸君も賜野に負けるな。日々研鑽し、職務に励め! 以上!」 「ああ~、これでお前とは、はっきり差がついちまったな。」 自分の席に戻ると……

## 第四幕

――乱歩が警視庁の拘留所に入れられてから、すでに数日が過ぎていた。 味気ない朝食を胃に収め、身の回りで片づけるべき場所を掃除した。 「――今日の差し入れだ。」 金属扉の小窓から、新聞が何部か押し込まれた。 「ありがとう……。」 礼を言って、乱歩はまだ痛む負傷した手を伸ばし、その新聞を受け取ると、記事の内容を確かめ始めた。 ――数分後。 「……やっぱり、こうなるか。」 彼は肩を落とした。声には、思わず失望がにじむ。 ――人形座事件の容疑者は、いまだ犯行を認めていない。 ――墜落少女の行方は不明。 ――警視庁が捜索に着手、協力関係は崩壊か? どの見出しも、乱歩と沙絵加の二人が嵌められた可能性など、いささかも考慮していないように見えた。 森栖が陸軍を率いて包囲して以来、乱歩たちは世間から完全に、「人形座事件を自作自演した黒幕」として認識されていた。 ……彼女が辣腕な人間なのは確かで、自分は彼女を知りすぎている。 彼らを主犯に仕立てれば、事件はきれいに幕を引ける。 しかし――事実として、乱歩も沙絵加も犯人ではない。 冤罪が晴れる気配はなく、自分の言葉もまったく聞き入れられない。そんな状況のなかで、乱歩は日ごとに失望を積み重ねていった。 そうか……誤解とは、これほど容易く広がるものなのか。真相とは、隠されたままにしておかれるものなのか…… 「……はあ。」 そして―― 「……記事を書く。全国に知らせてやる。お前の杜撰な捜査と、違法な取り調べの実態を……

## 終幕

「政府からの組織改正勧告と、長官の免職命令が、警視庁に届いたそうだ。」 正午を過ぎた定食屋。 乱歩の向かいで新聞を読んでいた臼杵が、そう言った。 「これで警視庁も、徹底的に粛清するしかない。取り調べの拷問も、一部の幹部の汚職も、これまでずっと見て見ぬふりだったからな……警察組織も、やっと『近代化』したわけだ。ほら、あの警視も降格されている。」 「どこに書いてある?」 乱歩は臼杵の手から新聞を受け取り、記事にざっと目を通した。 伸ばした腕にはまだ痛みが走るが、身体中の傷は、ほとんど治りかけていた。 ――あの日の戦闘のあと、各紙と放送はこぞって、乱歩が暴いた「真相」を報じた。 活人形事件の黒幕は、警視庁のエリート刑事だった。 根本の原因は、署内の腐敗にある。 結果として、墜落少女が大立ち回りを見せ、刑事の暴走を食い止めた。 ……もちろん、彼女の正体も、カステラのことも、一言も書かれてはいない。 そして――警視庁の腐敗は社会問題となり、ついには国が主導して是正する事態に至った。 ……意図したわけではないが、桔梗の遺志を果たしたと言えるのかもしれない。 「……ところで、だが。」 臼杵は湯呑の茶を飲み干し、目を細めた。 「墜落少女が、本当にお前の取材を許したとはな。」 「……そうですか?」 「こっちは当てずっぽうだったんだ。裏に何か事情があるとは思っていたが、まさか本当に当たるとは。」 「それは……

## あとがき

前シリーズを終えた段階で、担当編集のKにははっきり「次は陽気なコメディを書きたい!」と言っておいたのに、蓋を開けてみればこんな作風の作品が出来上がっていて、自分でもかなり驚いている。岬鷺宮です。 この作品を書くにあたって、大正時代の資料を調べるのに、いろいろな方法を試した。 本を読み、当時の地図を丹念に研究し、昭和三年創業で、多少は大正の空気を感じられる飲食店にも足を運んだ。 そうするうちに当時の風土や人情が少しずつわかり、大正時代のさまざまな魅力に触れた。なかでもいちばん心を引かれたのは、当時の女学生たちの文化だった。 彼女たちは流行語をいくつも生み、身だしなみを大切にし、歌劇団のスターに憧れて……現代の女子高生にもまったく引けを取らない、活気に満ちた日々を送っていた。一気に魅了されてしまった。友人同士の手紙のやりとりも盛んだったそうで、それを知ったときには、なぜだか胸が熱くなった。ああ、いつの時代でも、女の子は女の子なんだな、と。 百年近く前のことと言えば、もう感触すら湧かないほど遠い気がする。けれど、人の気質は、実はそれほど変わっていないのかもしれない。 本書のヒロインは、そうした女学生たちと同じ年頃の、十代の少女である。 ただ、私の個人的な好みをすべて詰め込んだ結果、彼女は大正の女学生にも現代の女子高生にも寄らず、別次元のキャラクターに育ってしまったようだ。 かなり偏屈で、手間のかかる娘ではある。それでも、どこか可愛いところがあるんじゃないだろうか。生みの親として……

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