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## 挿絵
台湾版 軽之国度より転載 訳者:李逸凡 絵:フライ 内容紹介 海を愛するわたしは、大地を崇める一族から疎まれ、 ついには海を祭る生け贄に選ばれてしまう。 海底へ沈んだわたしは、神の岩をめざして必死に泳ぎ、 そこで、自らを神と名乗る少女に出会った。 「あなたと一緒に旅へ出たい。遠い場所へ行きたい。 この世界で、あなたと一緒に生きていきたい」 見知らぬ言葉を口にする彼女は、それほどまでに優しさを渇望していた。 けれど彼女は、いったいどこから来たのか。その背後には、どんな目的があるのか。 孤独な少女と、何も知らない神の少女。 少女たちが出会う物語が、やさしく幕を開ける! 本書の特色 ★深い水底から生まれた、少女が少女に出会う新世代の恋物語! ★累計発行部数四百万部超、作風自在の鬼才作家・入間人間、最新作! 著者紹介 入間人間 二〇〇七年より、さまざまな日本語作品の翻訳に携わる。日本のアニメやゲームが大好きで、「御門幻流」の筆名でオンラインゲームやSNSにも姿を現す。 一九八六年生まれ。二〇〇七年六月、正式に作家となる。現在きわめて活発に活動する新鋭作家。公式サイト「入間之間」にて、新しい創作や一問一答などを発表している。 李逸凡 訳者紹介 他の訳書に、『少女妄想中』『わたしの小規模な奇跡』『わたしの小規模な自殺』『神のゴミ箱』『バカ、情感张力で突き進め』『六百六十円の実情』『昨日も彼を愛していた』『……
## 黄昏の星へ向かう五月
外で何が起きているのか気になって飛び出してしまったのは、そもそも間違いだったと思わざるを得ない。外界へ出た瞬間、機能が突然、勝手に起動した。本来の使命を果たすために、強い光を放ち始めたのだ。 放たれた強光は、わたしたちの帰路を奪った。強光は間欠的に降り注ぎ、地面を焼き払い、同時に、光の注ぐ地点を調べていた仲間の多くを焼き殺した。状況をつかめていない仲間も含め、その強光は容赦なくすべての者へ襲いかかった。強光が反応する対象には、確かにわたしたちも含まれていた。 いつのまにか、地面には広大な痕跡が残されていた。その痕跡を目印にするかのように、さまざまな生活圏が生まれ、わたしたちはそこで暮らすことを強いられた。誰ひとり勝手に移動することはできず、長く退屈な日々を、そのまま過ごすことになった。誰かが言っていた。わたしたちが頼れるのは、最初に持ち込んだ道具だけだと。 しばらくして、突然たくさんの生物が現れ、その生物たちはわたしたちを敵とみなした。いったん落ち着いた暮らしは再び掻き乱され、みんなの意見をひとつにまとめることもできなくなった。そのあいだに、環境は少しずつ変化していった。このまま淘汰されることだけは、避けなければならない。そのためにわたしたちにできるのは、適応するか、ほかの誰よりも突出するか、それだけだった。 わたしたちは、突出することを決めた。 鋭角に、まっすぐ突き出す。他者の下に身を屈めることを避けるため、腰を起こし、背筋を伸ばして。 今にして思えば、ほかに選択肢がなかったとしても、そうすることは、かなりの失敗だったのかもしれない。 さらに長い時が過ぎ、降り注いでいた強光は消えた。おそらく機……
## Chapter.1 神の岩の終点
ある理由から、わたしは勉強机の引き出しを開けた。まるで、自分の記憶を直接のぞき込むように。中には、小学校に通っていたころ使い残した鉛筆と、目盛りのはがれた分度器があった。定規は母の作った筆箱に収まっていて、ずっと引き出しにしまわれていたせいで、薄い埃をかぶっている。それを手に取ると記憶が呼び覚まされ、関係のない記憶まで一緒に引きずり出された。視線も記憶もあちこちを走り回り、探しているものはなかなか見つからない。焦りながら少し時間をかけて、ようやくそれを見つけた。 探し終えると、母に頼まれた用事を済ませるため、荷物を持って住まいを出た。最初の赤信号に足を止められるまでは、いつもの歩調で歩いていた。けれど青になるのを待っているあいだに、不安が一気に胸へ押し寄せた。 信号が青に変わると、わたしは反射的に足を速めた。 足早に進んでも、わたしはこの町のいまに、何の違和感もなく溶け込んでいる。 わたしだけではない。町じゅうが、近ごろどこか急いでいる。ほかの人たちのせわしない歩調を見ていると、時計の針がどんどん速くなっているような錯覚さえ覚える。 それも当然のことだ。 星は、心臓の鼓動を速めるように、自らの一生を急いで終えようとしている。 わたしたちも、便を逃すわけにはいかない。 宇宙船は、待ってはくれないのだから。 「皐月」 自分の名を呼ぶ声を聞いて、わたしは振り返った。 声がどこか曇っている彼女は、昨日と変わらず、美しかった。 「芽衣、あなたって完全に地元の人みたい」 「あなたも同じでしょう」 頭の上を越える高さから……
## Chapter.2 思いきり自然を楽しんだある日
住まいも年齢も近かったから、皐月とこんなに仲よくなったのは、必然だったのかもしれない。 「皐月っていうの」 「芽衣です」 お互いにごく簡潔に自己紹介したけれど、皐月にはわたしの声がよく聞こえていないようだった。 それも仕方ない。わたしは、自分の硬い頬に触れた。 「ほんと、ママたちの言ってたとおりだね」 「どういう意味? なんて言ってたの?」 「変なのが来た、って」 「えー」 神社の古い公園で出会った皐月は、わたしという変わり者を、心の底から喜んでくれた。皐月のほうがよっぽど変だとわたしは思っていたけれど、ともかくお互い変わり者だったせいか、ほかの子よりずっと早く打ち解けた。 「顔に、変なものつけてるね」 皐月が楽しそうに指摘して、わたしはすぐに、自分の顔の面のことをだとわかった。 「これ? パパとママが、これ着けなきゃ外で遊んじゃだめって」 外は汚いと言って、面を着けるよう強要された。住まいの外で面を外そうものなら、両親は烈火のごとく叱り、その顔は緊張していて、言い聞かせというより警告だった。 「それ着けてなくても、変な顔してるけど」 「……ひどいこと言うね」 わたしは思わずそう言った。ずいぶん経ってから、このときの皐月は一拍遅れて言い返していたのだと気づいた。本当は皐月も、わたしと同じ、女の子だった。 そのあと、わたしと皐月は公園の砂場で遊んだ。それはひとつの充……
## Chapter.3 わたしによって生まれた殺意
皐月の誕生日を祝うのは何回目だったか、わたしは大通りへ出た。皐月が喜びそうな贈り物を探して、小さな店を何軒も見て回る。店に入るにも、中の品を眺めるにも、身を屈めなければ動けないので、膝も太ももも痛んだ。それを何度か繰り返すうち、自分は時代の違う異邦人なのではないか、という錯覚が生まれ始めた。けれど実際には、わくわくしていた。 年月が流れるにつれ、知識も視野もいくらか広がり、さまざまなことが少しずつ見えてきた。 学校の天井は低く、友だちの家は狭く、うっかりすれば容赦なく頭にこぶができる。外界は、わたし以外の者が暮らすように設計されている。少なくともこの社会は、わたしがそこで生きることを前提には作られていない。小人たちの町でさんざん苦労しながら、わたしは風にはためく旗のようだと感じていた。 こんなふうに居場所のなさを感じるのは、一度や二度ではなかった。学校の集団行動でも、両親の何気ない仕草でも、ただ道を歩き、人とすれ違うときの高さの差だけで、心の底に静かな絶望が湧いてくる。 その感覚は罠のように、日常生活のあちこちに満ちている。この気持ちから逃れられないとき、わたしは町を離れ、気持ちを落ち着けるために自然へ近づいた。 人里離れた場所で自給自足し、残された自然はわたしの背丈をはるかに超え、包み込むように、頭の上を覆っていた……
## Chapter.4 星へ墜ちた五月
職務は、労働力になることだと決まっていた。ほかの星へ着いたあと、わたしたちに与えられる任務だ。そのことは最初から公表されていて、旅に出る者だけが宇宙船に乗れると定められていた。 この星を捨て、やり直すということ。 わたしはこの道を選んだ。けれど芽衣は違った。 芽衣には、選ぶ権利がなかった。生まれたときから、宇宙船に乗ることが決まっていた。そのために生まれたわけではなく、結果としてそうなったのだ。今の芽衣は、家族の期待を背負っているだけでなく、みんなの希望そのものだった。 それが、少しうらやましかった。 ただ、芽衣自身がこれをどう見ているかは、また別の話だ。 近所の斎藤さんは、娘を連れて宇宙船に乗るらしい。けれど奥さんは、一緒には行かないようだった。どれほど環境が厳しくても、見たこともない見知らぬ星へ行くより、ここに残るほうを選ぶらしい。 たしかに、そういう考えの人もいる。どうせ全員がすぐに死ぬわけではない。自分さえ生き延びられればいい。人類の発展や帰属にこだわらないのも、立派な意見だ。 芽衣がいなければ、わたしも宇宙船に乗るなんて考えなかっただろう。 この出会いがなければ。 芽衣を知らなければ、こんなことで悩む必要もなかった。 けれど、わたしは知ってしまった。 芽衣という、美しい人の形をした生物を。 そして、もうひとつのこともわかった。 筋肉に満ちた太い四肢、金属のような背中、あふれる生命力、弱点が突き出さない顔、遠くを見渡せる視力、為……
## いつか神を超える
今日にもここを越える、とわたしが宣言すると、彼女は笑って「そう」と答えた。 踏み出そうとしていた足を止め、わたしは振り返った。 隣にいる彼女も、大地に長く伸びた影を落としていた。 当然ながら、彼女の影のほうが大きい。 「あなたの指示どおりにやってるんだけど」と文句を言うと、彼女は「それはそうなんだけど」と答え、気まずそうに目をそらした。 そして付け加えた。「木を彫って船にするなんて、わたしも知識があるだけなんだから」 まあ、いい。どうでもいい。「とにかく夕陽は見終わったし、出発しよう」。もうひとつの目的を口にすると、彼女は呆れた顔をした。「あなたはいつもそう」と言いたげな様子で。けれど全部いいことだし、何もおかしくはない。 美しいものには、何度でもその美しさを感じる価値がある。石槍と同じくらい長く続くことは、とても大事な要素なのだ。見飽きないというのは、とても立派なことだろう? 説明し終えても、彼女は理解するのをあきらめたように「わからない」と返した。彼女に合わせて、ちょっと面倒なやり方で説明したというのに。ただ、口を開くのと同時に、気持ちは少し焦っていた。もうすぐ夕陽は消え、わたしは夕陽と夜が入れ替わるこの時間帯が、特別に好きだからだ。 早く行こう、とわたしは声をかけて彼女を急かした。 石槍を手に、平原を歩く。夜明けのように、夜の色へ混じっていく日光が、草原の向こうで燃えていた。風が吹くたび、日に焼けた青草がさやさやと鳴り、わたしたちの脚を打つ。 最初は、見に行きたいと言っていた……
## あとがき
基本的に、わたしはいわゆる神というものを信じていない。この世にいるかどうかはともかく、個人として信仰は何もない。けれど、あらゆるものには必ず道理と意味があるとは信じている。万物がこの世に存在するに至った過程も、自分がこうして本を書き、あとがきを書いている理由も、必ず意味があると思っている。 神の奇跡より、人の行いを信じる。それはたぶん、「幽霊より、金属のバットを振りまわす人間のほうが怖い」という気持ちに近いかもしれない。道でそんな人に出会ったら、本当に怖いだろう。 とにかく、ここまでの話は本編とは何の関係もない。 本作をお買い上げいただいたみなさんに、感謝を。 入間人間